3秒サマリー ENTSO-EのMARIとPICASSOは、欧州でmFRRとaFRRを共通プラットフォーム上で扱う取り組みだ。日本でそのまま同じ形を採るという話ではない。需給調整市場を、商品名だけでなく、入札、指令、応動確認、精算、契約条件まで含めて設計するための参考事例として読む必要がある。

要点

  • MARIはmFRR、PICASSOはaFRRを扱う欧州の調整力プラットフォームである。
  • 欧州では、TSOごとに分かれた調整力の入札や発動を、共通ルールとデータ連携で扱う方向に進んでいる。
  • 日本では、需給調整市場の商品を増やすだけでなく、広域運用、応動確認、精算、責任分界をつなげて考える必要がある。
  • 国内に置き換えるときは、立地、系統、電源・需要、時間帯、手続き、地域説明、契約条件に分解して見ると実務に落としやすい。
  • 蓄電池、DR、アグリゲーターの参加を広げるほど、通信、計測、未達時の扱いが市場の信頼性を左右する。

商品名だけでは動かない

日本では需給調整市場が整備され、発電機だけでなく、蓄電池、DR、アグリゲーターの参加余地も広がっている。再エネの出力変動が大きくなるほど、予備力をどこで、誰から、どの条件で調達し、実際に応動したかを確認する仕組みが重要になる。

ここで参考になるのが、ENTSO-Eが進めるMARIとPICASSOだ。MARIはmFRR、PICASSOはaFRRを扱う欧州の共通プラットフォームとして位置づけられている。国やTSOが異なる環境で、入札、発動、価格形成、精算をそろえる方向の取り組みである。

ただし、日本への示唆は「欧州と同じ制度を作るべきだ」という単純な話ではない。日本では国境を越えるTSO連携ではなく、国内のエリア間連系線、広域需給運用、需給調整市場、リソース多様化をどう接続するかが焦点になる。

共通化する対象を見極める

MARI/PICASSOが示しているのは、調整力を個別エリアの余力として見るだけでなく、共通ルールで比較し、必要な場所へ使える形に近づける発想だ。そのためには、商品定義だけでなく、入札データ、指令、応動確認、精算、責任分界をそろえる必要がある。

日本でも、需給調整市場の商品設計と実運用を切り離して考えると、実務上の摩擦が残りやすい。たとえば、リソースが発動指令にどう応じたか、通信障害が起きた場合に誰が責任を負うか、複数リソースを束ねたときに未達をどう扱うかは、価格だけでは解けない。

調整力は、発動できること、測れること、検証できること、精算できることがそろって初めて市場商品として機能する。欧州事例は、この一連の運用設計を点検する材料になる。

欧州事例:MARI/PICASSOで見える変化

Before:欧州各国のTSOは、それぞれの制度や商品設計で調整力を確保していた。国境を越えて予備力を活用するには、制度差、商品定義、データ連携、精算の壁があった。

施策:ENTSO-Eは、MARIでmFRR、PICASSOでaFRRを扱う欧州共通プラットフォームを整備している。TSO間で入札、発動、価格形成、精算を扱うための共通化が中心になる。

After:調整力は、各国の内部運用だけで閉じるものから、共通プラットフォーム上で比較・活用するものへ近づいている。日本では、需給調整市場と広域運用をどこまで一体で扱えるかが論点になる。

[表:海外事例から、日本で分けて考えること]

論点海外で起きたこと日本で置き換えて見るなら
立地国境をまたぐ複数TSOのエリアを前提に調整力を扱う発電地、需要地、連系線の位置関係を分けて確認する
系統TSO間で調整力を活用するため、系統制約と市場運用を接続するエリア内系統とエリア間連系線のどちらが制約になるかを見る
電源・需要発電側だけでなく、蓄電池や需要側資源を含めた調整力の扱いが重要になる発電機、蓄電池、DR、アグリゲート資源の応動特性を分けて評価する
時間帯必要な調整力は需給状況や系統状態によって変わる再エネ出力、需要、連系線利用が重なる時間を確認する
手続き入札、指令、応動確認、精算を共通プラットフォームで扱う取引所での商品取引と、一般送配電事業者の運用手続きをつなげて見る
地域説明複数エリアの運用を前提に、調整力の使われ方を説明する必要があるどの地域の制約に対応する調整力なのかを、関係者に説明できる形にする
契約条件未達、通信、精算、責任分界をTSO間・市場参加者間で整理する応動未達、通信障害、束ねたリソースの責任範囲を契約に落とす

日本では運用条件に分解する

日本でMARI/PICASSOを参考にするなら、制度名ではなく運用条件に分解して読むほうが実務に近い。立地では、発電地、需要地、連系線の位置関係を見る。系統では、エリア内の制約とエリア間の制約を分ける。

電源・需要の面では、発電機、蓄電池、DR、アグリゲート資源を同じ一語でまとめないことが重要だ。応動速度、継続時間、計測方法、通信経路が異なれば、同じ調整力商品でも運用リスクは変わる。

時間帯も切り分けが必要になる。再エネ出力が大きい時間、需要が変動する時間、連系線利用が集中する時間では、必要な調整力や発動の意味が変わる。手続き面では、入札から精算までのデータを、あとから検証できる形で残せるかが焦点になる。

地域説明と契約条件も軽く見られない。調整力は一般の需要家から見えにくいが、系統安定のためには欠かせない。誰のリソースが、どの条件で、どの責任範囲で使われるのかを説明できることが、市場参加を広げる前提になる。

日本で考える5つの論点

  • 商品と運用:需給調整市場の商品定義と、実際の指令・応動確認・精算を一体で設計できるか。
  • データ連携:入札、発動、計測、精算のデータを、リソース別に追跡できるか。
  • 広域運用:エリア間連系線や広域需給運用と、市場で調達した調整力をどう接続するか。
  • リソース多様化:蓄電池、DR、アグリゲーターの特性を、同じ市場の中でどう扱うか。
  • 契約と責任:未達、通信障害、複数リソースの束ね方を、参加者が理解できる契約条件にできるか。

結論:市場の信頼は運用で決まる

MARI/PICASSOの本質は、調整力を共通プラットフォームで扱うために、商品、データ、指令、精算をそろえようとしている点にある。日本にとっての示唆は、欧州制度のコピーではなく、需給調整市場を実運用まで含めて点検することだ。

今後の焦点は、調整力を「調達した」と言えるだけでなく、「発動できた」「測れた」「検証できた」「精算できた」と言える仕組みにすることだ。そこまで整って初めて、蓄電池やDRを含む新しいリソースが、市場の信頼を支える存在になる。


用語ミニ辞典

用語意味
MARI欧州のmFRR向け調整力プラットフォーム。
PICASSO欧州のaFRR向け調整力プラットフォーム。
mFRRManual Frequency Restoration Reserve。手動で発動する周波数回復予備力。
aFRRAutomatic Frequency Restoration Reserve。自動制御で発動する周波数回復予備力。
DR需要家が使用電力量を調整し、需給バランスに貢献する仕組み。
TSO送電系統運用者。送電網の安定運用を担う主体。

出典:

  • ENTSO-E「MARI」
  • ENTSO-E「PICASSO」
  • 電力需給調整力取引所 公式情報

出典・参考情報

記事本文は公開情報と公式・一次情報を優先して作成しています。重要な判断の前には、必ずリンク先の最新情報を確認してください。

参考メディア: 画像URL: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Transmission_towers_at_sunset_in_East_Texas.jpg / 作者: Matthew T Rader / ライセンス: CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0 / 取得日: 2026-05-22

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