3秒サマリー FERC Order 1920は、送電計画を個別接続の積み上げだけでなく、長期の需要・電源シナリオと費用配分で考えるための米国制度である。日本で読む価値は、広域系統整備を「どこに電源があり、どこに需要があり、誰に便益があるのか」と分けて説明する点にある。

要点

  • 何が起きた:FERCはOrder No. 1920で、長期地域送電計画と費用配分を扱う枠組みを示した。
  • なぜ重要か:再エネ、大口需要、電化、信頼度対応が重なると、接続申込を受けてから送電増強を考えるだけでは遅れやすい。
  • 日本への意味:再エネ適地と需要地が離れる日本では、広域系統整備、接続申込、費用配分、便益説明を同じ前提で見る必要がある。
  • 論点:送電投資を、特定の接続者向け設備として見るのか、広域の便益を持つ設備として見るのかで、説明と費用負担が変わる。
  • タイミング:大口需要の立地、再エネ開発、広域系統整備の検討が重なる段階で、長期シナリオをそろえておきたい。

長期で見る

送電網の不足は、個別の接続申込だけを見ても全体像がつかみにくい。再エネの立地、大口需要の増加、電化の進み方、既存系統の混雑は、同じ地域で同じタイミングに起きるとは限らない。

FERC Order 1920が示す重要な視点は、送電計画を長期の地域計画として扱い、需要、電源、政策、信頼度などの要因を計画に入れることだ。これは米国制度の話だが、日本でも広域系統整備を考えるときの読み替えができる。

日本では、再エネに適した地域と大きな需要地が離れやすい。北海道、東北、九州などで再エネ導入を進めても、需要地へ届ける送電能力、地域間連系線、地内系統、接続工事の整合がなければ、電気を使える形にしにくい。

何が変わるのか

従来の見方では、送電増強は個別の接続申込や混雑対応に紐づいて説明されやすい。もちろん、接続検討や個別工事は重要である。ただし、それだけでは、将来の需要地、電源立地、広域便益を先に織り込むことが難しい。

長期送電計画の見方では、先に複数のシナリオを置く。どの地域で需要が増えるのか。どの地域で再エネや他の電源が増えるのか。どの送電線や変電設備に混雑が出やすいのか。どの設備増強が、複数の需要家や発電事業者に便益を持つのかを整理する。

ここで難しくなるのが費用配分である。送電設備は一つでも、便益を受ける主体は一つとは限らない。接続者、需要家、地域、系統全体の信頼度、再エネ導入の余地など、説明すべき相手が分かれる。

米国事例

FERC Order No. 1920は、長期地域送電計画と費用配分に関する命令である。公式資料では、将来を見据えた地域送電計画を進め、送電設備の便益と費用配分を扱うことが主題になっている。

日本が見るべきなのは、米国の制度をそのまま移すことではない。州や地域の構造、送電事業者の制度、費用回収の仕組みは日本と異なる。参考になるのは、送電計画を「申込対応」だけに閉じず、長期シナリオ、広域便益、費用配分、地域説明に分けて設計する考え方である。

[表:米国事例から、日本で分けて考えること]

論点米国で起きたこと日本で置き換えて見るなら
電源の出どころ再エネを含む将来の電源構成や政策要因を、地域送電計画の前提に入れる再エネ適地、既存電源、将来の電源立地を、需要地までの送電能力と合わせて見る
場所州や地域をまたぐ送電計画で、電源立地と需要変化を扱う北海道、東北、九州などの再エネ適地と、首都圏・中部・関西などの需要地の距離を分けて確認する
時間帯長期の需要変化、電源出力、混雑、信頼度を計画要因として扱う太陽光・風力の出力が高い時間帯、需要ピーク、出力制御、地域間連系線の利用状況を同じ前提で見る
手続き長期地域送電計画と費用配分を、制度上の論点として扱う接続申込、系統増強判断、広域系統整備計画、託送料金や負担の説明時期をそろえる
地域への説明送電投資の便益を、地域や関係者に説明する必要がある送電線・変電所の工事だけでなく、再エネ導入、需要増対応、混雑緩和、停電リスク低減などの便益を分けて説明する
費用配分の役割送電増強の費用を、誰がどの根拠で負担するかが計画の中心論点になる接続者負担だけでなく、広域便益、需要家便益、再エネ導入便益をどう整理し、どの費用に反映するかを確認する

日本で見る論点

まず、長期シナリオを一つに固定しないことが重要である。需要の伸び方、再エネ開発の進み方、大口需要の立地、既存火力や原子力の扱いによって、必要な送電増強は変わる。単一の想定だけで投資判断をすると、後から説明が難しくなる。

次に、再エネ適地と需要地の距離である。発電設備の開発余地がある地域と、電気を多く使う地域が離れている場合、接続点だけを見ても十分ではない。接続点から先の地内系統、地域間連系線、需要地側の受け入れ設備まで見ないと、広域系統整備の必要性を説明しにくい。

費用配分も早めに分けたい。ある送電増強が、特定の発電所の接続に必要なのか、複数の電源を受け入れるためなのか、需要増に対応するためなのか、信頼度や混雑緩和にも効くのかで、説明の筋道が変わる。費用の負担先を決める前に、便益の種類を分解しておく必要がある。

便益説明では、専門用語だけでは伝わりにくい。混雑緩和、出力制御の抑制、供給信頼度、需要地への送電余力、将来の接続余地などを、関係者ごとに意味が分かる言葉へ置き換えることが求められる。

接続申込との関係も実務上の焦点になる。個別申込が増えてから順番に増強を検討すると、広域的には同じ設備が何度も論点になる可能性がある。接続検討の情報を、広域系統整備の長期シナリオへどう反映するかが鍵になる。

日本で考える5つの論点

  • 需要、電源、政策、信頼度を含む長期シナリオを複数置いているか。
  • 再エネ適地、接続点、地域間連系線、需要地側の受け入れ能力を一連で見ているか。
  • 送電便益を、混雑緩和、信頼度、再エネ導入、需要増対応、将来接続余地に分けているか。
  • 費用配分の説明を、便益の種類と対応させて整理しているか。
  • 接続申込の情報を、広域系統整備の前提に反映する流れを確認しているか。

結論

FERC Order 1920から学べるのは、米国の制度そのものではなく、送電計画を長期シナリオと費用配分で説明する姿勢である。送電線や変電所の増強は、設備候補を並べるだけでは合意に進みにくい。

日本では、再エネ適地と需要地の距離、広域系統整備の時間軸、接続申込の増加、費用負担の説明が同時に問題になる。だからこそ、どの設備が誰にどの便益をもたらすのかを早い段階で分け、長期シナリオと結びつけて説明する必要がある。


用語ミニ辞典

用語意味
FERC米国連邦エネルギー規制委員会。米国の電力・ガスなどの規制を担う連邦機関。
Order 1920長期地域送電計画と費用配分に関するFERCの命令。将来を見据えた送電計画が主題。
長期地域送電計画将来の需要、電源、政策、信頼度などを踏まえて、地域単位で送電網の整備を考える計画。
費用配分送電投資にかかる費用を、誰がどの根拠で負担するかを決めること。
広域系統整備地域をまたぐ送電網の増強・整備。再エネ導入、需要増、供給信頼度に関わる。
接続申込発電設備や需要設備を送配電網へ接続するための申込み。個別案件と広域計画の接点になる。

出典:

  • FERC「Order No. 1920: Building for the Future Through Electric Regional Transmission Planning and Cost Allocation」(2024)
  • FERC「Fact Sheet: Building for the Future Through Electric Regional Transmission Planning and Cost Allocation」(2024)
  • OCCTO「広域系統長期方針」公式情報

出典・参考情報

記事本文は公開情報と公式・一次情報を優先して作成しています。重要な判断の前には、必ずリンク先の最新情報を確認してください。

参考メディア: 画像URL: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Transmission_towers_at_sunset_in_East_Texas.jpg / 作者: Matthew T Rader / ライセンス: CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0 / 取得日: 2026-05-22(既存ライセンス確認済みWikimedia画像を、長期送電計画テーマのヘッダーとして再利用)

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